「韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩」 金 敬哲

韓国映画「パラサイト 半地下の家族」で韓国のコンテンツに興味を持つようになりました。その後、Netflixで韓国ドラマ「梨泰院クラス」「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」にもはまり、これらコンテンツをもっと楽しむために、韓国の現状について知りたいと「韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩」を手に取りました。韓国の社会問題である、一握りの勝ち組とその他に分断された「超格差社会」について書かれた書籍です。

 

1948年に建国した大韓民国は「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれるほど、休息な成長を遂げました。西欧が数百年かかった経済発展の過程を、わずか数十年に圧縮して経験したのです。しかしながら、この異常な「圧縮成長」は、大きな副作用ももたらしました。それは、日本の中小企業や地方経済のような「細胞」が育たず、 富が一部に集中してしまったこと。
「成長するのが一番、そのためには手段や方法を選ばない」という風潮が広まり、韓国人をゆがんだ競争主義に追い込んだと、作者は説明します。

「韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩」の章立てはこちらです。

第一章 過酷な受験競争と大峙洞キッズ
第二章 厳しさを増す若者就職事情
第三章 職場でも家庭でも崖っぷちの中年世代
第四章 いくつになっても引退できない老人たち
第五章 分断を深める韓国社会

 

韓国ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」の第9話では、「子どもは遊ばないと!」と塾のバスをハイジャックして子どもたちを誘拐し遊びに連れ出した青年が登場します。裁判で被告人となった青年は、毎日遅くまで勉強させられている子どもたちを解放したかったと主張します。
このエピソードに出てくる小学生たちの苛烈な塾通いが決して誇張ではなかったのだと、第1章の「過酷な受験競争と大峙洞キッズ」を読んで知りました。

学歴こそが競争社会を生き抜く力となる韓国社会では親たちは全てをかけて子供の教育に邁進します。 当然ながら教育費はうなぎのぼりで、世界一低い出生率へとつながっているとのこと。韓国の、2021年の韓国の合計特殊出生率は0.81です。

2021年の合計特殊出生率は0.81、少子化問題さらに深刻に(韓国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

 

この書籍から、次のようなことも知ることができました。「出生率」に最も大きな影響を及ぼしているのは若年層の未婚率の増加ですが、韓国統計庁の「2015年の人口住宅総調査」によると、20代の未婚率は91.3%、30代でも36.5%です。また、2025年には、30代の未婚率が50%を超えるとの予想も発表されています。
結婚や出産が遅れる理由が経済的な問題であることが、大学卒業生の就職率は66.2%(「2017年の高等教育機関卒業者の就職統計」)とかなり低いことからも容易に想像がつきます。

 

最後に、この本は次のように締めくくられています。

行き過ぎた資本主義と、そこからの揺り戻し。政治に翻弄され続ける韓国社会は、今や、難破船のように針路を見失っている。
そして、最後に、もし政権が道を誤れば、これは世界中のどの国でも起こりうる、ということを覚えてほしい。新自由主義に向かってひた走る、日本の近未来の姿かもしれないのだ。
(p208)

韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩」は隣国が直面している様々な問題について、理解を助けてくれる書籍でした。韓国の課題は決して対岸の火事ではないと感じました。これからも、韓国コンテンツに触れながら、韓国社会の今を確認していきたいです。